「営業力を高めるには何が大事ですか?」

よくいただくこの質問に、私はいつも「事前準備です」と回答しています。

この記事では、なぜ事前準備が大事なのか、事前準備で何をすればいいか、について解説します。 より効果的に、より生産性の高い営業活動を実現するための参考にしてください。

営業される側になって気づいた事前準備の大切さ

新人営業マンとして法人の新規開拓営業に明け暮れていたころから事前準備の大切さは、本で読んだり先輩に教えていただいていたものの、 本当の意味で事前準備の大切さが腹落ちしたのは、自身が営業される側に立った時でした。

WEBシステムの構築にあたり、二社から提案をいただきました。

A社のセールスは事前にこちら側が抱えている課題をいくつか想定し、それに対する事例とプランを複数用意されてました。また私のSNSを事前にご覧になられていたようで、アイスブレイクで共通の会話をきりだされて雰囲気よく商談が進みました。

もう一方のB社のセールスは、自社パッケージについて素晴らしいプレゼンをしていただいたのですが、おそらく事前準備をされていなかったのでしょう。こちらの状況をヒアリングする質問もなく、プレゼンが終わって数秒の沈黙後、「御社にとってビジネスを拡大させることができます!いかがでしょうか」とクロージングにはいられました。

コスパを考えるとB社のパッケージを活用した方が少し良さそう印象でしたが、A社のセールスと比べてB社のセールスは今後お付き合いしたいと思えず、結局A社の提案を採用しました。

両者の違いってなんだったんだろうと振り返るに、事前準備の差がMTGの質の差につながり、信頼感の差になったということです。

事前準備で得られること

事前準備をしっかりすることで得られるメリットはいくつかありますが、私が感じる大きなメリットは主に3つ、「ヒアリングの質があがる」「距離を縮めることができる」「熱意を伝えられる」です。

ヒアリングの質があがる

いい営業は相手の話をよく聞きます。なぜかというと、相手を知ることでより相手にフィットした提案ができるようになるからです。

ではどうしたら相手の話を聞くことができるのでしょうか。

私自身、ヒアリングがとても苦手でした。新人のころはそもそも何を聞いていいのか分からなかったものです。 そうするとせっかくお時間をいただいても、自分から製品のメリットを一方的に話すだけになり、上述のB社のセールスのようになってしまいます。

では事前準備をすることでなぜヒアリングの質があがるのかをお伝えします。

仮説をぶつけることで相手の本音を引き出しやすくなる

想像してみてください。

若い営業マンがやってきて、ひと通り会社案内をした後に質問してきました。 「御社の課題を教えてください」

あなたならどう対応しますか?

私なら「課題は色々とありますが、とりあえず全部言えばいいんですかね?」とあきれてその場で商談を打ち切ります。時間がもったいないですよね。

たとえば会計システムの営業マンがやってきました。そこで人事の課題や売り上げをどう伸ばすかといった課題を伝えたところで、問題解決は期待できません。

大切なのは、自社の製品やサービスで解決できる問題はなにか、解決できる課題を引き出すにはどのような質問をするか、です。

引き出す質問というのは仮説をもとに問題提起をして相手に考えさせる質問です。

例えばこのような質問です。

「御社と近しい規模の会社で、会計システムが基幹システムと連動していないため、手入力が多く、ミスにつながり、決算の締めが遅れて経営判断に支障をきたしているという課題をお持ちの経営者がいらっしゃいましたが、御社ではいかがでしょうか?」

仮説があっていれば、「ウチも決算対応が遅れてしまっている」という回答を得られるでしょうし、そこからさらに原因を深ぼる質問に繋げていくことができます。

もし仮説が間違っていても「ウチはそこに課題を感じていない、むしろ業務が属人化している方が問題だ」といったような形で他の課題を引っ張り出すきっかけになるでしょう。

この「仮説づくり=事前準備」であり、事前準備をすることがヒアリングの質の向上につながっていくことがお分かりいただけたかと思います。

限られた商談時間を有効に使うことができる

先方の会社概要やビジョン、事業内容、組織体制、採用情報など、事前にインプットした場合としなかった場合、商談に時間を要するのは後者であることは説明するまでもありません。

特に悲惨なのは、商談相手が経営者で、延々とビジョンや社歴を一方的に話されて時間切れになるパターンです。

こうならないためにも事前準備をしっかりして、商談の冒頭で「御社のホームページでビジョンや事業内容を拝見してきました」と一言いうことで相手側の説明をグッと短くすることができます。

また先方に仮説だてした課題をこちらからぶつけることで、先方の回答は「Yes or No」の端的な回答を引き出しやすくなります。

事前準備によって会話のやりとりは一部省略できることで、残りの時間でより深いディスカッションをすることができます。 もっというと、1時間の商談時間をとっていたにもかかわらず、30分たらずで状況を的確にヒアリングし、刺さる提案をして、さっとMTGを終えることができれば、相手からの信頼をグッと高めることができます。

スマートなセールスですよね、相手の時間を大切にしつつ、本質的なディスカッションができる人って。

距離を縮めることができる

相手との距離を縮めることは、より本質的なヒアリングをするために重要なポイントとなります。

初対面の人に経営や組織・自身の悩み事を気軽に相談する人は少ないのではないでしょうか。

一方で相手を信頼できたり、気心がしれた相手だと思わず言葉が出てしまうこともご理解いただけると思います。

初対面の人と距離を縮めるコツは、共通点を見つけることや、共感することです。

この共通点を見つけること、共感するポイントを掴むことは事前準備によってカバーできます。

私がよく見るのは、SNS(Facebook、Twitter、Linkedin)と先方の名前でGoogle検索して出てきた記事などです。先方が経営者の場合は会社のビジョンや社歴もチェックします。

熱意を伝えられる

営業は熱意よりも、相手の状況を把握してベストな提案ができるかどうか、が重要だと私は考えてます。

一方で「A社の営業マンは一生懸命だしね」という形で結論がでるケースをこれまでにたくさん見てきました。

特に提案内容で甲乙つけがたい場合ですとか、単価が安くて購入の検討ハードルが低い商材でよく見られます。

あと経営者は熱意を重視される傾向にあります。

熱意をどうやって伝えるか、やり方は色々あるかと思います。熱く語る、力強くクロージングをする、何度も訪問する、質問には即レスする、お礼手紙を書く・・・・

その一つに、事前準備をしっかりしてきたこと(時間をかけてきたこと)だけでも熱意は十分に伝わります。

そういう意味では、事前準備をしてきたことは何らかの形で伝える必要もありますね。

事前準備ってなにをすればいいの? 大事なのは仮説づくり

具体的になにをすればいいのかお伝えします。

ポイントは、ヒアリングの質を高めること、相手との距離を縮めること、とお伝えしました。 この二点についてどう事前準備すればいいのかをお伝えします。

ヒアリングの質を上げるための事前準備

識いただきたいことは、いくつかの仮説を用意することです。 特に自身が営業をする商材・サービスで解決できる、かつ相手が課題として抱えていそうなこと、をいくつか仮説としておくと商談の質がグッとあげることができます。

いい提案というのは相手の状況をふまえてベストな提案をすることです。 つまり正しく相手の状況を把握する必要があります。

相手の状況を把握するには本音を引き出すことが重要で、そのためにいくつか仮説をぶつけていくのです。

仮説をぶつけるにあたり、具体的にやっていることは2つあります。 ①ネットで先方の情報を探しまくる(外部情報) ②近しい業種や規模の事例を用意する(内部情報) です。

ネットで顧客情報を収集しましょう

相手企業の情報収集でもっとも有効なのはホームページです。

多くの企業が、会社概要や事業内容などを掲載しています。 とはいえ、企業によってホームページで公開している情報の濃度は異なります。

ここでは上場企業と非上場企業に分けて情報収集のやり方をお伝えします。

上場企業は投資家向けに情報公開が求められますので、基本的には会社ホームページに多くの情報が掲載されております。 トップページにある「IR」とか「投資家向け」といったタブから見れます。

私の場合、投資家向け資料の中では「有価証券報告書」「決算報告資料」「中期経営計画」をよく見ています。

それぞれの情報をどういう観点で見ているのかについては、ボリュームが多くなるので別記事で解説します(作成中)。

非上場企業の場合は、ホームページの会社概要や事業内容、採用情報をよく見ます。

あとはGoogleで企業名を検索し、ニュースタブで直近の動きを確認します。

ほかに企業名検索で出てくるインタビュー記事や、「企業名 採用」で検索をして、リクルートなどの転職サイトを見たりします。 転職や新卒の就職ナビは学生向けに自社がなにをやっているか説明してくれており、ホームページよりもわかりやすいことがあります。

非上場企業でホームページや外部サイトでも情報が出てこない場合は、同業種の上場企業のサイトから業界の課題を調べて仮説を立てることもあります。

近しい業種や規模の事例を用意する

こちらは内部情報の活用となります。

実際に自社で支援した実績例をもとに仮説だてした課題は相手に興味関心を持っていただきやすいものです。

先述したネットで拾える情報というのは当然ながら営業相手もキャッチアップしているはずで、一般論よりも現場のリアルな情報をもとにした情報の方が相手方に価値を感じていただきやすいものです。

事前準備では相手を調べることも大事ですし、自社だからこそ保有している情報を相手に伝えることも大事な視点をなります。

距離を縮めるための事前準備

先述のとおり初対面の人との距離を縮めるには、①共通点を見つけること ②共感すること の2つが効果的です。

①の共通点はプライベートなものほど相手との距離は縮まりますので、過去の在籍企業や趣味、家族構成を見ることが多いです。

過去の在籍企業がわかれば共通の知り合いがいたり、過去に仕事で接点があったという話題が膨らみやすくなります。事前に先方のお名前を把握しておき、FacebookやLinkedinで調べると過去の在籍企業がわかることもあります。

趣味を探す場合は、Facebookの投稿を見ます。ゴルフの投稿が多い人なら、商談の冒頭で「Facebookを拝見しました。ゴルフをよくされるんですか?私もやるんです」といった形で切り出すと、相手も心をひらいてくれやすいでしょう。

家族構成もFacebookでチェックします。特に子どもの投稿をよくしている人は、お子さんの話はとても喜ばれます。

②の共感は、相手方が仕事のうえで大事にしていることを念頭にチェックします。

経営者でしたら理念やビジョン、創業の経緯といった話で一気に距離を縮めることができます。

あとは先方のお名前でGoogle 検索をすると、インタビュー記事や採用ページで引っかかることがあります。その内容を見ることで、先方が何を大切にしているか、どこに興味関心があるかを知ることができます。

事前準備したことがはずれた。そんなときどうする?

今まで事前準備の大切さをお伝えしてきましたが、たまに事前に準備しておいたことがことごとくハズれることもあります。

ただ心配しないでください。一生懸命に事前に調べてきたことが相手に伝われば、悪い気はされません。 むしろ熱意が伝わることで、相手方から本音をしゃべってくれることもたくさんありました。

人間だもの、ハズレることは何度でもあると思います。ただそれがマイナスになることはほぼないと私自身の実体験から断言できます。

ハズしたときは落ち着いて、「準備してきた仮説がことごとく外れてしまいました。率直にお聞きしたいのですが、御社ではどのような課題を抱えられてますでしょうか?」と質問すれば十分です。

(まとめ)営業は事前準備が8割

正直なところ営業は事前準備が8割というのは言いすぎかもしれません。

とはいえ、私が営業の中で一番時間を割いているのが事前準備であることは真実ですし、8割くらいの気持ちで取り組んでちょうどいいくらいだと思います。

これまで多くの営業の方にヒアリングしてきましたが、営業における事前準備の大切さは知っているものの、他の作業に忙殺されて事前準備がままならない状況で商談にのぞんでいる人が多いなと感じます。

これは非常にもったいない。

新規開拓をしたことがある人ならお分かりになると思いますが、アポ一件とるにもかなりの労力と時間を要します。

せっかく得た商談の機会、ここで8割決まるくらいの気持ちで事前準備をすべきでしょう。