SNSが発達し、それにより新たな悩みが生まれている現代。救命処置の現場でもそれは例外ではなく、意識のない救護を受けている最中の女性の胸元を撮影するなど、非常識極まりない行動が問題になっています。

人命最優先であると誰しもわかっているはずなのに、「救護のための行動でもセクハラで訴えられてしまうのでは」というような危険を感じてしまい、救護を躊躇するという事態が起きてしまっているようです。

セクハラを始めとするハラスメントは、本来男女差などの昔からの慣習を見直し、より良い社会へと発展していくためのモラルであったにもかかわらず、さまざまな現代的な事象によって日本全体が過敏になり、むしろマイナスに働いている場面もよく見られるようになってしまいました。

しかし、その訴えられるかもしれないリスクを恐れるあまり救える命を救えなかったら・・・?

今回は、そんな不安や躊躇する気持ちを払拭する、「女性」と「救命処置」の問題や女性へのAED使用時の注意点を考えていきましょう。

女性へのAED使用率は男性に比べ低い。男女差がある理由とは?

(1)中学生くらいから女性への利用率は下がる傾向

学校で心停止状態になった小中高生に対してAEDが使用されたデータを見てみると、高校生になると途端に女子学生への利用率が低くなっているそうです。

小中学生の時点での使用率に男女差はなく、高校生になると変化が見られるのは、女性へのAED使用に対する躊躇を表していると推測できます。

躊躇する理由として多く寄せられているのは、洋服を脱がせることへの抵抗感のようです。このことは、以前NHKの番組でも取り上げられ問題提起されていました。せっかく助けることができても、痴漢やセクハラ扱いを受けてしまうのでは、という不安感や危険を覚え、AEDの使用をためらってしまう心理があるようです。

(2)SNSの発達がネックに?周りの目や悪意のある撮影

特に現代は、良くも悪くもSNSによる情報発信が力を持っています。人命救助の場面を動画撮影しSNSにアップ、しかもその中には電極パッドを貼り付けるためにあらわになった女性の胸元を狙って撮影するという非常識な行動をとる人がいるのです。このことは一時ニュースなどにも取り上げられ、道徳的な観点からも話題になりました。

例えば、このような非常識な人物によって拡散されるSNS動画に、AEDを使用し救護している最中の自分が映り込んでしまったら?と、不安に思う気持ちは理解できる人が多いのではないでしょうか。

(3)AEDは医療機器。使用して「セクハラに該当する」はデマ

前述したような男性側の心理によって、「AEDを使用して人命救助したらセクハラや痴漢扱いを受けてしまうのではないか」という不安の声が聞かれるようになりました。

結論から言うと、だれが見ても人命救助を行なっていて、そのために服をはだけさせたり、電極パッドを装着するためにブラジャーや体に触れているとわかる状況において、痴漢やセクハラとして罪に問われることはほぼあり得ないでしょう。痴漢は性的な意図を感じられる場合に該当するものであり、医療機器であるAEDを使用する場面での目的は「人命救助」です。人命救助に必要のない行動(体に触れたり見つめるなど)をどれだけ取ったかが判断基準になりますので、言うなれば、SNS配信を目的に倒れている女性を撮影している人物のほうが痴漢行為に該当する可能性が高いと言えるのではないでしょうか。

行き過ぎたモラルが、命を守る邪魔をしてしまう現代

(1)AED使用時に洋服を脱がせることへの躊躇

特に男性であればなおさら、電極パッドを装着することが目的とはいえ倒れている女性の服を脱がせることに抵抗感を覚えてしまうのは仕方のないことでしょう。むしろ、正常な感覚とも言えます。しかし、そもそもAEDを使用する際洋服をすべて脱がせる必要はないのです。電極パッドを装着する=肌があらわになることが避けられないわけではありませんし、女性への配慮が課題に挙がってからは、できるだけ素肌をさらさないで救助するさまざまな方法も提案されてきました。女性への配慮を保ちながら救助活動を行なう方法は後ほどご紹介します。

(2)一番大切なのは「命」

一昔前に比べ、人権や性差別など「モラル」に対する考え方や注意点は大きく変化しています。社会的にも性別による差をつけてはいけないなど、過ごしやすい日本へと変化し続けています。

しかしそれが極端な方向にも進み、救命救護の場面にも影響を及ぼすようになりました。

忘れてはいけないこと、それは何より大切なのは「命」であるということ。モラルを守っても死ぬようでは何の意味もないのです。

また、女性への性的観点の他にも、「もしもAEDの使用を誤ってしまったら罪に問われるのだろうか」と心配に思う人も多いことでしょう。

しかし、これに関しても重大な過失にはならないのではないかという見解が大半です。悪意がなく一般人が懸命に救護を行なった場合、仮に失敗してしまったとしても責任を負わされることは考えにくいとされています。

上記のことからも、起こる可能性が低い「かもしれない」という不安から、救急車が到着するまで救護を躊躇してしまうのは非常に悲しいことです。目の前にいた人が手を差し伸べていたら助かった命かもしれないのです。

(3)女性側からも「使用してほしい」という声が上がっている

そんな中、女性側からも「AEDを使用してほしい」という声が高まり、SNS上で「自分は胸を見られるより命のほうが大切」「服を破ってAEDを使ってください」という声が発信されています。女性側からそのような声が上がることは、男性側にとっても安心材料につながるのではないでしょうか。

また、AED使用や人工呼吸の訓練をする人形で、女性版を用意してほしいという声も上がっています。男性や子供の人形はあっても、女性用は一般的には使用されていないようです。

「胸のふくらみやブラジャーなどで、どこにAEDの電極パッドを貼ればよいのかわからない・・・」という声もあり、訓練の場で女性へのAED使用時の注意点をわかりやすくするよう、改善が望まれています。

これを意識すれば大丈夫!女性の救護にあたるときの注意点

(1)周りに協力を求める

では、具体的に女性を救助する際のポイントを見ていきます。

まず傷病者や救助者の性別にかかわらず、救助を開始するときには大きな声を出して周りに助けを求めましょう。そして救急車を呼んでもらいます。

その後、救急隊が到着するまでの間に救命処置を行ないますが、心臓マッサージには思っている以上に体力を使います。力が弱まると救護活動にも影響を及ぼしますので、できれば交代で対応できる人員を確保することが理想です。

そして、女性が倒れていて救助する人が男性の場合、救助に参加してくれる女性を探すのもよいでしょう。直接女性が救護にあたることができなくても、同じ女性同士、気遣ってほしい部分を自然と配慮することができるはずです。ブラジャーなど女性特有の下着のつけ外しもスムーズに行なえます。

(2)電極パッド使用時の注意点

女性にAEDを使用する際、多くの人が扱いに悩むのがブラジャーです。金属が使用されているブラジャーも多く、電気ショックを与える医療機器であるAEDへどのような影響があるのでしょうか。危険はないのか、使用時の注意点を確認しましょう。

以前はネックレスなども含め、AED使用時には金属類はすべて外すのが一般的な考え方でした。しかし現在は電極パッドが直接肌に張り付いている状態であれば、ブラジャーをつけたままでも機能に差し支えないとされています。AEDの電極部分とブラジャーの金属が離れていればスパークする危険性は低く、それよりもブラジャーを外すことに手間取り人命救助の開始が遅くなってしまうことのほうが問題視されています。救急車が到着するまでの間、どれだけ早く処置を開始できるかが、その後に大きく影響するのです。ブラジャーを外すことに時間を割いてしまうのは非常にもったいないことです。

(3)電極パッドの上から衣類をかけても大丈夫。肌をあらわにせず救護活動はできる

命を助けることが何よりも最優先ではありますが、女性特有の気になる点にはできる限りの配慮はしたいものです。

まず、電極パッドをしっかりと装着した後であれば、AED使用時にパッドの上から洋服をかけても構いません(ただし、金属と電極パッドが直接触れてしまうとスパークする可能性があるため、上からかける洋服の装飾品には注意しましょう)。そうすれば、肌の露出はほんの一時におさえることができ、救助者の心理的負担も和らぎます。また、女性を救助するときのことを想定して、AEDと一緒にスカーフなど布状のものを一緒にしまっておくという配慮をしている施設もあるようです。気づきそうで気づけない、しかし容易に準備できる良いアイディアです。

周りにいる人に協力してもらい、現場に人垣を作ってもらうのもとても良い方法です。そうすることで、SNSへ良からぬ投稿をしようという悪質な行為を防ぐことがでるでしょう。

もしも救えなかったら・・・?罪に問われるのか

(1)大丈夫、基本的に罪に問われることはありえない

前述した通り、救助者に悪意があったり重大な過失がない限りは、罪に問われることはほぼないとされています。例えば救助に当たった人が救命救護の研修を受けたことがないという場合や、知識が浅い人が救命処置に当たった場合でも同様です。救護したいという気持ちの元行なわれた行動の中で意図的にケガをさせるようなことをしなければ、訴えられることはほぼないと考えられています(仮に訴えらえたとしても裁判で負ける可能性は低いようです)。

(2)救護していることが明白な状況でセクハラにはならない

一時、「女性が男性に対してAEDを使用し救命処置をしたら、セクハラで訴えられた」というデマがSNSで話題になったことがありました。このように、AEDや人命救助の場面でセクハラや痴漢行為として訴えられたという噂は、そもそも都市伝説のようなものが多いようです。実際にはそのような訴訟のケースは見当たらないとも言われています。

前述したように、何よりも問題なのは配慮のし過ぎで救助活動が遅れてしまうことです。心肺停止からAEDの使用や心臓マッサージ、人工呼吸といった処置が行なわれないまま時間が経過した場合、1分経過ごとに10%生存率が減少してしまいます。人命救助は一分一秒を争います。自分の家族や会社の仲間、学校の仲間の女性が、配慮に気を取られすぎるあまり、救急車が現場に到着するまで救護活動が進まない状況にいたとしたらどうでしょうか。そんなことはいいから一刻も早く救命活動を開始してほしいと誰しも思うのではないでしょうか。

まとめ

今回は、人命救助の場面での「女性への配慮」やその注意点について考察しました。

SNSの発達、モラルや人格を守ること・・・どちらも現代の宝でありながらも、それによるひずみが生まれており人々を悩ませています。

それは人命救助の場面だけではありません。

一体、「守る」とはどのようなことなのでしょうか。

インターネットの出現により本来正しかった行動が、心無い人の行ないで捻じ曲げられてしまい、新たな注意点を生む時代になってしまっていますが、最優先にするべきことは「命を守ること」。それを見失わずに、取るべき行動を迷わず取れる、そのような社会にしていきたいですね。

心臓発作で女性が倒れ、救急車が現場に来るまでの間に救命処置を行なう。医療機器であるAEDの電極パッド誤作動やスパークの危険を防ぐために、衣服やブラジャーを動かしたり、胸元が濡れていないか確認する。大丈夫、その行動になんら間違いはありません。デマに踊らされることなく、自信を持ち命を守りましょう!